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第12話 『欠片の詩歌』 Aパート

■鏡

 一夏、沙耶の家で旧校舎にあった鏡を見つける。

一夏「なんで、これがこんな所に?」
沙耶「これが元々、私のものだからよ」
一夏「沙耶、さん…」

 沙耶、鏡の中から出てくる。


■沙耶とカイと舞夏

 カイ、舞夏を抱きかかえて登場。

カイ「言われたとおりに連れてきた」
沙耶「いい子ね。 誰にも気付かれなかった?」
カイ「ああ」
沙耶「返事は?」
カイ「あ、はい…」

沙耶「この子たちは、私のいいなり、私のものなの」
舞夏「ちが、う… この姿をしてる時は、人でいる間は、あたしはあたし、
    あんたのものじゃない、あんたの一部じゃないわ」
沙耶「残念ね、ペナルティよ」


■試しの子

沙耶「この子(セイ)も、あなたも、人間たちを試す試金石として運命付けられた、試しの子」


■沙耶

何もわからない子供。 心が汚された大人。
そのどちらでもない、端境の存在、14歳。
その季節にジンの目を通して世界を視せてあげるの。
その目に世界はどう映るかしら。
人間はどう視えるかしら。
自分自身をどう感じるかしら。

人間はとても曖昧な存在。
心と精神の美しさを表すという、七つの美徳も、
裏返せばたちまち七つの悪徳に変わる。

慈愛の心は憤りの背中合わせ。
節制は傲慢さのもう一つの顔。
献身は怠惰に取って代わられ、
誠実さは野心と偽りに敗北する。
理性と情熱は嫉妬や情欲へ。
正しい知恵は策謀に。
節度を知る平衡感覚も、暴食や貧食に姿を変える。

かわいそうに…。 その子の時よりもひどい結果…。
あなたは人間に失望して、自らを嫌悪して…。

あなたに選んで貰いたいの。
失望した人間たち全てを消し去るか、それとも、嫌悪した自分自身を消し去るか。

鏡は世界や人を映すものよ。
美しいもの、醜いもの、どちらを映すべきかしら。

私は鏡のジン。
あらゆるものの真実の姿を映し出す、世界の全ての代弁者。

世界は皆、美しくある事を望んでいるわ。
醜いものなんて鏡が映す価値もない。
そうでしょ?
様々なジンの目を通して視てきたあなたに選んで欲しいの。
全ての人間と、あなたひとり、どちらを消し去るべきかしら。

6年前、あの子は選べなかったわ。
選べないお馬鹿さんには死が待っている。
でも、彼(カイ)がね…、彼は私の言いつけを破ったの。
この子が答えを出す手伝いをするっていう言いつけを。

―――――
カイ「俺はどうなったって、元の姿に戻れなくたっていい!
   ただ、こいつを、こいつの命を助けてやって下さい!」
沙耶「身代わりにあなたが死ぬって言うの? 人間としての骸を晒して…」
カイ「(うなずく)」
セイ「カイ、ダメだ、お前が死んじゃ! 俺…、俺…」
カイ「(微笑む)」
沙耶「(溜息)セイくん、その子を生かしたいなら、その分だけあなた、
    自分の命を削って与える勇気がある?」
セイ「(うなずく)」
カイ「はっ、セイ!」
沙耶「(溜息混じりに)ホント…、鏡写しね…」
―――――

ホント…、揃って馬鹿な子たち…。


■一夏

一夏「どちらかしか、選べないんですか?」
沙耶「二つに一つよ」
一夏「っ……」
舞夏「(一夏、自分の死なんて選ばないで。 そんな事、あたし…)」


■一夏

一夏「沙耶さん、私、答えます。 私、どちらも…」
舞夏「一夏…」
沙耶「選べないの?」
一夏「いいえ、選ばないんです」
カイ「!」

好きな人もいます。
苦手な人も、います。
自分自身の嫌いな所も、いっぱいあります。
道にゴミを捨てた事だって、あります。
でも私、生きていたい、自分を変えたい。
ヤキモチ焼いたり、ウソをついたり、ウジウジしたりする自分を、
変わりたいし、変えていきます!
そうでなきゃ、生きてる意味がない。
きっと誰だってそう。
今日よりあした、少しでも自分を良くしていきたい、そう、思ってるはず。
今の自分が全てじゃないって、今の世界が全てじゃないって、信じたいんです。

沙耶「なるほど。 それがあなたの回答…。 あなたの気持ちは良くわかりました」
舞夏「あぁ…」
沙耶「けれど、
舞夏「!」
沙耶「二つに一つの回答を放棄しましたね。 ルール違反、ペナルティよ」


――――― アイキャッチ ―――――